13. これから
Ray Tracing: The Rest of Your Life (v3.2.3): 13 The Rest of Your Life / 3.13 これから
「週末レイトレーシング」三部作の最終章です。本書では少人数のプロダクション用レイトレーサーを実装するための基礎知識を学びました。あとは残りの人生をかけてレイトレーシングに取り組んでいく時間です。
本書を通じて実装したもの
第3編で積み上げたものを振り返ります。
モンテカルロ積分の基礎(第2〜5章)
- 一次元 MC 積分と球面方向の MC 積分
- 重点サンプリング:密度の高い方向を多くサンプリングして分散を削減する
PDF の階層設計(第6〜10章)
| クラス | 役割 |
|---|---|
CosinePdf | Lambertian 散乱のコサイン重み付き方向生成 |
HittablePdf | 光源形状に向けた幾何サンプリング |
MixturePdf | 2 つの PDF を 1:1 で混合 |
アーキテクチャの整理(第11〜12章)
ScatterRecordenum で鏡面散乱と拡散散乱を型安全に区別- PDF の構築責任をレンダラーからマテリアルへ移動
- アルミ箱とガラス球を含むコーネルボックスシーンで動作確認
残された課題
原著は次のトピックを今後の発展として挙げています。
速度の改善
- 現在の実装はシングルスレッドのシリアル実行
→ 今後の展開:rayonを使ったスキャンライン単位の並列化
サブピクセルサンプリングの改善
- ランダムサンプリングの代わりに Halton 数列などの準乱数列を使うと収束が速くなる
三角形メッシュのサポート
- 現在の primitives は球・矩形・直方体のみ
- 一般的なレンダラーは
.obj/.gltfなどから三角形メッシュを読み込む
マイクロファセット BRDF
Metalの fuzz は簡易モデル- GGX や Beckmann などのマイクロファセット分布を使うとより物理的に正確な金属・ガラスを表現できる
媒質(ボリューム)の発展
- 第2編の
ConstantMediumは均質な媒質のみ - 不均質媒質(煙,雲,炎)には経路長サンプリング(delta tracking)が必要
まとめ
本シリーズを通じて,Rust で完全動作するレイトレーサーを一から実装しました。
WebAssembly として配信しているため,すべてのデモはブラウザ上で実行できます。
物理ベースレンダリング(PBR)・双方向散乱分布関数(BSDF)・フォトンマッピング・パストレーシングの収束加速など,さらに深く探求したい方は以下の資料が出発点になります:
- Physically Based Rendering: From Theory to Implementation(Pharr, Jakob, Humphreys)
- Advanced Global Illumination(Dutré, Bekaert, Bala)
- Pixar's RenderMan 関連論文
「週末レイトレーシング」が示したシンプルな原理から,プロダクション品質のレンダラーへの道のりは長いですが,基礎はすでに揃っています。